住宅とは?~新型コロナウイルスの影響で改めて考えさせられました。~
建築業界でも新型コロナウイルスの影響が出ているようです。
影響のひとつに中国で生産されているユニットバスやシステムキッチンなどの住宅用の建築設備やドアなどの建材が日本に入ってこないということがあるようです。
これに対して国土交通省が通知を出しました。
http://www.njr.or.jp/data/20/mlit_co_200227.pdf
当初の設備のある計画を設備がない計画に変更の手続き等をして、設備かない計画で工事を完了させ完了検査を受けることができるように柔軟に対応するように。
という内容で、検査する側の建築主事・指定確認検査機関向けに出されています。
実際は、建築主には当初の計画通りに設備を設置した状態で引き渡すと思われるので、あまり意味がないように思うのですが、年度末ということでハウスメーカーなどにとってはとりあえず完了検査に合格して検査済証を発行してもらうこにより、融資を実行させ建築主から建築費を回収したいと考えてるのではないでしょうか。
一部の資金繰りが厳しいハウスメーカーなどが国に要望しているのではないかと思われます。
国のこの対応には賛否あると思いますが、この問題で改めて思うことがあります。
「住宅とは?」です。
建築基準法では定義されていません。
辞書によると
と定義されています。
建築基準法の一般的な取り扱いとしては、台所・風呂・便所の3つの設備が揃っていることが住宅であること必須条件としていることが多いと思います。
人が住まうのに必要な設備が備わった建築物を住宅とするという考えをから、具体的に人が住まうとは寝食や入浴・排泄などを行うことで、それらを行うためのための設備は台所・風呂・便所であるという発想です。
さらに、「住宅とは?」でよく問題になるのは令1条1号のいわゆる「一敷地一建物の原則」です。
一敷地には2棟の住宅は建築できませんが、住宅(母屋)と離れは用途上不可分であるため一敷地に建築できます。
例えば、
親の実家の隣に息子家族の家を建てたいと考えたとき、「一敷地に住宅2棟は建築できないけど、住宅に附属する「離れ」なら建築できる」という悪い発想が生まれ、息子家族の家を最終的には上述の3つ設備を備える計画だけど、役所(指定機関)への申請では1つの設備を設置しないことで「住宅ではない⇒離れ」として手続きを行い、完了検査後に改修工事で3つの設備を揃えて「離れ」を「住宅」にしてしまう。
これは、明らかに違法行為なのですが、一昔前は、「役所の手続きさえ通れば」という発想で設計者が建築主を主導して(または建築主には言わずに)行うことが多々あったのではないでしょうか。
今では、コンプライアンスの問題もありこのようなことを計画する設計者は少ないとは思いますが、「3つ設備が揃っているかどうか」だけがひとり歩きし、そもそも、住宅とは「人が住まうための建築物」であるというや「離れ」とは何かといったことから考えれば、規模や間取りからも「離れ」ではないのは明らかなのではないでしょうか。
もう1つ改めて考えされることがあります。 「工事の完了とは?」です。建築基準法の規定を満足していることが検査できれば工事完了なのかといえば違うような気がします。
少し長くなってしまったため、詳しくはまたの機会に書ければと思います。
新型コロナから発生した問題で改めて考えさせられました。
ビューローベリタスの行政処分について思うこと
令和2年2月14日に9社の指定確認検査機関が確認検査業務で不適切行為があったとして国土交通省の処分を受けました。
http://www.mlit.go.jp/report/press/house05_hh_000823.html
http://www.mlit.go.jp/report/press/content/001328791.pdf
この9社の中でも、ビューローベリタスジャパン㈱が約40日間の新規の申請受付の停止処分を受けたということは個人的にかなりの衝撃でしたし、建築業界としても衝撃的だったのではないでしょうか。ビューローベリタスジャパン㈱が行ったのは建築基準法に適合しない計画に対して確認済証を交付したという不適切行為とのことです。
衝撃を受けた一方で、いつかはこのようなことが起こるのではということは予見されていたのではないでしょうか。
平成12年まではいち公務員である建築主事だけが行っていた建築確認・検査業務を、法改正により平成12年以降は国等から指定を受けた民間の確認検査機関(以下「指定機関」)でも行うことができるようになりました。今では、東京都内でいえば業務を行える指定機関は36機関にものぼり、建築主事に申請することはほとんどなく90%以上の建築確認・検査申請が指定機関にされている現状です。
http://www.jcba-net.jp/map.html
そうなると、それぞれの指定機関が客である設計者(建築主)を取り合うという構図になります。
そのため、いち指定機関(民間企業)として、他の指定機関よりいいサービスをして差別化を図らなければなりません。
このいいサービスというのがいい方向での差別化であればいいですが、現実はそうではなく、「審査期間の短縮のため、審査がおろそかになる」とか「厳しく審査すると、次回以降、他の指定機関に申請されてしまうのを恐れて審査自体が緩くなる」といった望ましくない方向での差別化になっているように思います。また、ただ単純に審査者や指定機関自体の審査能力にも問題があるのかもしれません。
さらに言うと、本来、建築確認・検査については設計者が資格ある立場として建築基準法の適合する計画であるとして申請されるのが大前提ですが、この大前提が崩れてしまっているのではとも感じます。
指定確認検査機関制度の問題、指定機関・設計者の能力不足や法令遵守の意識の低さが今回の行政処分の背景にあるのではないでしょうか。
法6条区分(法第6条第1項)
法6条自体は建築物を建築する前の手続きについて規定されている条文で、この法6条区分によって建築する際の手続きが変わってきます。
さらに、法6条以外の規定でも、たとえば法20条の構造耐力に関する規定では、どんな技術的基準・どんな構造計算が適用されるかは建築物が法6条区分のどの区分に該当するのかによって変わってきます。
建築主事と特定行政庁は何が違う?
建築主事を置く市町村(の長)を建築基準法では特定行政庁といいます。
また、都道府県はもれなく建築主事がおかれており、都道府県(知事)も特定行政庁です。
✳特定行政庁と建築主事の解説
特に意識しなければ、「建築主事が行う事務と特定行政庁が行う事務がそれぞれあるんだ。」で終わってしまいますが、よく考えるとちょっと違和感がありませんか?
・建築主事って置く必要があるの?
・建築主事を置くなら建築主事が建築基準法に関わる行政の事務を全部すればいいのでは?
まだまだ、私も勉強不足でこの建築主事と特定行政庁の関係性をすべて解説できる訳ではありませんが、
特定行政庁と建築主事では行う事務の性質が根本的に違う。
ということが大きく関わっています。
そこで今回は、それぞれが行う事務の性質について、解説をしていきます。
まず、建築主事はどんな事務を行うかというと、建築基準法上、建築確認・中間検査・完了検査・仮使用認定(法7条の6第1項第二号)です。
これらに共通しているのは、羈束行為(キソクコウイ)と言われる行政行為だということです。
羈束行為とは、
例にあげた法43条2項一号の許可に関わらず、許認可に関する基準は、各特定行政庁が裁量の範囲で設けているものなので、ある特定行政庁の区域では許可された内容でも別の特定行政庁の区域では許可されないということがあるので、注意が必要です。(各特定行政庁の許可基準自体は同じような許可基準が設けられていることが多いのですが…)
今回は、建築主事と特定行政庁の事務の性質の違いについての解説でした。
【用語の定義】特定行政庁(法2条)
特定行政庁は語句の通り、特定の行政庁(都道府県・市・町・村)です。
どのような行政庁が建築基準法のなかで特定行政庁に該当するのかということが、法2条三十五号で定義づけされています。
そして、特定行政庁はどのようなことをするのかというと、
建築物の違反指導(法12条)、接道許可(法43条2項)、用途許可(法48条)などがあり、その他ここではあげきれないくらい多岐に渡ります。一方、建築主事の行う事務は建築確認・中間検査・完了検査・仮使用認定に限られています。
建築主事と特定行政庁の行う事務の違いについては、また解説します。ここでは、特定行政庁の定義について解説を進めていきます。
さっそく、条文を見ていきます。
法第2条第三十五号
三十五 特定行政庁 建築主事を置く市町村の区域については当該市町村の長をいい、その他の市町村の区域については都道府県知事をいう。ただし、第九十七条の二第一項又は第九十七条の三第一項の規定により建築主事を置く市町村の区域内の政令で定める建築物については、都道府県知事とする。
①:建築主事を置く市町村のその市町村の区域
→その市町村の長のことを特定行政庁という
②:①以外の区域
→都道府県知事のことを特定行政庁という
例えば、
神奈川県の横浜市は(法4条1項に基づく)建築主事を置く市です。よって、横浜市の特定行政庁は横浜市です。
一方、同じ神奈川県の海老名市は、建築主事を置いていない市です。よって、海老名市の特定行政庁は海老名市長ではなく、神奈川県知事です。
✳建築主事についての解説
次に、本文の後段にただし書きの除外規定が設けられています。
原則、市町村の建築主事は法4条に基づいて置くこととされています。
法97条の2第1項では、規模などにより限定した建築物・工作物の建築確認の審査を行う建築主事を市町村に置くことができる特例(建築主事の特例)が設けられています。
また、法97条の3では、法97条の2と同じような建築主事を特別区(いわゆる東京23区)に置くことができる特例(特別区の特例)が設けられています。
✳建築主事の特例・特別区の特例についての解説
法97条の2・法97条の3に基づいて建築主事を置いた区域では、
①:建築主事の特例と特別区の特例によって市町村(特別区)の建築主事が建築確認の審査を行う建築物に関すること →市町村の長のことを特定行政庁という
②:①以外の建築物に関すること →都道府県知事のことを特定行政庁という
建築主事の場合と同様、建築物の規模などによって、同じ区域で特定行政庁が市町村長になるのか都道府県知事になのるか変わります。
たとえば、
千葉県野田市は法97条の2に基づいて建築主事を置いているので、法4条のただし書きが適用されることから、
①木造2階建て延べ面積100㎡の住宅の違反指導(法12条)→野田市(野田市長)が行う。
②鉄骨造2階建て延べ面積400㎡の飲食店の違反指導→千葉県(知事)が行う。
となります。
もう少し解説すると、
①の建築物は法6条1項四号に該当する建築物で、法97条の2第1項の政令(令148条1項一号)で定める建築物に該当しますが、②の建築物は法6条1項一号と三号に該当(四号に該当しない)し、法97条の2第1項の政令で定める建築物に該当しません。
以上が、特定行政庁の定義についての解説でした。
特定行政庁と建築主事についてなんとなくイメージできるようになってくると、次に、
・建築主事と特定行政庁は何が違うの?
・そもそも、分ける必要があるの?
という疑問がでてきます。その辺りについては、冒頭にも書きましたが、改めて解説します。
【用語の定義】延焼のおそれのある部分(法第2条)
とりあえず法文を見てみましょう。
(B:耐火構造の壁その他これらに類するもの)
構造耐力② (法第20条) ✳建築物の区分
以前の記事で法20条(1項)の構成について解説しました。
簡単にいうと…
建築物の規模・構造等による建築物の区分
→その建築物の区分に応じて仕様規定と構造計算基準を適用させる。
という構成になっているということでした。
今回は、その建築物の区分についてそれぞれ解説していきたいと思います。
まず、区分は4の区分に別れます。
それぞれ法20条1項一号・二号・三号・四号の4区分です。
一号は単純です。
高さが60m超の建築物です。
次に四号です。これも単純です。
一号・二号・三号に該当しない建築物です。
次に二号です。
最初に言っておきますが、複雑です。個人的に複雑になっている理由は建築物の区分を分けるのに構造計算によって判断するケースがでてくることだと思っています。
(前段に解説した法20条の構成を意識して法文を読んでいけばちょっとは理解しやすいと思います。)
まずは、法20条1項二号の建築物の区分が規定されている部分を見てみましょう。
二 高さが六十メートル以下の建築物のうち、第六条第一項第二号に掲げる建築物(高さが十三メートル又は軒の高さが九メートルを超えるものに限る。)又は同項第三号に掲げる建築物(地階を除く階数が四以上である鉄骨造の建築物、高さが二十メートルを超える鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物その他これらの建築物に準ずるものとして政令で定める建築物に限る。)
まずは前提条件が高さ60m以下です。
その次は「AまたはB」という大きな構成です。
Aが、
第六条第一項第二号に掲げる建築物(高さが十三メートル又は軒の高さが九メートルを超えるものに限る。)
Bが、
同項第三号に掲げる建築物(地階を除く階数が四以上である鉄骨造の建築物、高さが二十メートルを超える鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物その他これらの建築物に準ずるものとして政令で定める建築物に限る。)
よって
・高さ60m以下でAに該当する建築物
・高さ60m以下でBに該当する建築物
のどちらかで法20条1項二号に該当する建築物になるということです。
次にAとBに何が規定されているか見ていきましょう。
Aは比較的簡単です。
法6条1項二号建築物(木造で階数3以上または延べ面積500㎡超)で高さ13m超または軒高9m超
です。
例えば、
①木造3階建て延べ面積100㎡高さ14m、軒高8.5mの戸建て住宅
→Aに該当(前提条件の60m以下も満たしています。)
②木造平屋延べ面積150㎡の高さ4m、軒高3.5mの飲食店
→Aに非該当(前提条件の60m以下は満たしていますが…)
次にBの部分です。
Aの部分と構成は同じなんですがカッコ内が「a、bまたはc」という構成になっていて、さらにcは別の条文(36条の2)に飛びます。
法6条1項三号建築物(木造以外で階数2以上または延べ面積500㎡超)で
a:地階を除く階数3以上の鉄骨造
b:高さ20m超のRC造(またはSRC造)
c:令36条の2に該当する建築物
令36条の2を見ると
一号から五号のうちどれかに該当するとcに該当します。
一号:地階を除く階数4以上の 組積造 か 補強CB造 の建築物
二号:地階を除く階数3以下の鉄骨造で 高さ13m超 か 軒高9m超 の建築物
三号:RC造とSRC造の併用構造で 高さ20m超 の建築物
四号:木造・組積造・補強CB造・鉄骨造の2以上の併用構造 か 木造・組積造・補強CB造・鉄骨造のいずれか1以上 と RC造かSRC造の併用構造
でさらに
地階を除く階数が4以上(イ) か 高さ13m超か軒高9m超(ロ) の建築物
(少し複雑です…。)
五号:H19国交告示593号で指定する建築物(告示がとても複雑です…。)
となります。
✳告示593号についてはまた解説のことしたいと思います。(この中に構造計算の結果により法20条1項二号に該当するかどうかの判定をすることになり法20条の建築物の区分を理解するうえで肝になる部分だと思います。)
あとは三号ですが、
建築物の区分が規定されている部分を見てみましょう。
冒頭の部分(①)と最後のカッコ内(②)を見ると
①高さ60m以下の建築物⇒一号の建築物にならない
②前号(法20条1項二号)の建築物以外の建築物
と規定されていて、この①、②はこの区分の前提条件です。
それを前提に、さらに次のa~cのどれかに該当する建築物が三号の区分に該当する建築物ということになります。
a:法6条1項二号の建築物
b:法6条1項三号の建築物
c:石造・れんが造・CB造・無筋CB造・その他これらに類する構造のいずれか で 高さ13超か軒高さ9m超 の建築物
まとめると三号に区分に該当する建築物は、①と②を満たし、a~cのどれかに該当する ということになります。
ここで重要なところは、法20条1項一・二号以外の法6条1項二・三号に該当する建築物は法20条1項三号に該当するということになり、建築物の安全性を確認するための構造計算が必須ということになります。
これで、一~四号のすべての建築物がもれなく振り分けられたことになります。
(※告示593号はまた改めて解説します。)