建築主事の特例 (法97条の2)
建築主事については、以前に説明しました。そこでも書いたのですが、法97条の2に市町村の建築主事等の特例が規定されています。今回はそのうちの建築主事の特例について書きます。
まず、法97条の2第1項を見てみましょう。
✳この条は(市町村の建築主事等の特例)という題になっており1~3項までに市町村の建築主事の特例が規定されています(題の中の「等」の部分)。その他の項については1項により建築主事を置いた場合の特定行政庁の特例(取り扱い)が規定されています。よって今回は1~3項までの解説にとどめ、特定行政庁について解説するときに併せて解説します。
第四条第一項の市以外の市又は町村においては、同条第二項の規定によるほか、当該市町村の長の指揮監督の下に、この法律中建築主事の権限に属するものとされている事務で政令で定めるものをつかさどらせるために、建築主事を置くことができる。この場合においては、この法律中建築主事に関する規定は、当該市町村が置く建築主事に適用があるものとする。
法4条において市町村に建築主事を置くには、人口25万人以上で政令で指定される(1項)か都道府県と協議して自主的に置くか(2項)のどちらしかありませんでした。
法4条に基づく建築主事は1項、2項、5項の3つに分けられ、それぞれの指揮監督権者のもとに受け持つ地域を分けを行っているに過ぎず、それぞれの建築主事がその地域で行う事務に違いはありません。
しかし、法97条の2第1項に基づく建築主事はちょっと違います。
令148条で規定されている内容に関する事務だけを行います。その市町村のそれ以外の事務はというと、都道府県に置かれている建築主事が行います。(逆に都道府県知事は令148条で規定されている事務はできません。)
さっそく、令148条1項を見てみると…
(建築主事の特例について規定されているのは1項のみです。2項からは法97条の2第1項に基づき建築主事を置いたときの特定行政庁の取り扱い(特例)について規定されています)
法第九十七条の二第一項の政令で定める事務は、法の規定により建築主事の権限に属するものとされている事務のうち、次に掲げる建築物又は工作物(当該建築物又は工作物の新築、改築、増築、移転、築造又は用途の変更に関して、法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定により都道府県知事の許可を必要とするものを除く。)に係る事務とする。
二 第百三十八条第一項に規定する工作物のうち同項第一号に掲げる煙突若しくは同項第三号に掲げる工作物で高さが十メートル以下のもの又は同項第五号に掲げる擁壁で高さが三メートル以下のもの(いずれも前号に規定する建築物以外の建築物の敷地内に築造するものを除く。)
都道府県知事の特別な許可を必要としない小規模な建築物・工作物に関する事務を行います。
ここでいう事務とは、具体的に権建築確認(法6条)・中間検査(法7条)・完了検査(7条の3)のことです。(実はそもそも建築主事の行う事務はあまり多くありません。)
小規模なというのが1項の一号(建築物)・二号(工作物)に規定されています。
(工作物については本来建築物ではないのですが一定の工作物は建築基準法の規定が一部準用されます。)
一号(建築物)の場合、法6条1項四号に掲げる建築物で詳しい説明はまたの機会にしたいと思いますが、
例えば、一般的な大きさの木造2階建て戸建て住宅や鉄骨平屋の自転車置き場などが該当します。
二号(工作物)の場合は一号より理解しやすと思いますが、
敷地内に一号の建築物しかないことが前提で、①6m超で10m以下の煙突(そもそも6m以下の煙突は建築基準法の適用外)または②2m超で3m以下のよう壁(そもそも2m以下のよう壁は建築基準法の適用外)
最後に法97条の2戻ります。残り2項・3項ですが、
2項については、建築主事を置く場合の手続きについてで「法4条2項に基づく建築主事と同じ。」ということが規定されています。
3項については、ちょっと難しいのですが、
(建築基準法において「建築主事を置く市町村」という語句が出てきます。主に建築主事を置く市町村が建築主や建築物の所有者の立場で出てきて、建築物の建設時や定期的な検査の手続きが一部省略できたり簡略できるとった規定があります。(例えば法18条)ということを前提に)
法97条の2による建築主事は令148条の各号で規定されている建築物・工作物に関してだけ、建築主の立場になったときに手続きの省略・簡略ができるということです。
あとは、後段に「建築審査会という組織を任意で置くことができる。」と規定されています。(法4条により建築主事を置く市町村・都道府県は必置です。)
特別区の特例 (法97条の3)
法97条の3(法97条の2の次の条)には特別区の特例が規定されています。
まず、特別区というのは、
いわゆる東京にある23の区のことで詳しくは地方自治法に規定されています。(地方自治法においても政令市に置かれる区(行政区)とは異なり特別な権限が与えられていたりします。)
以前に解説した法97条の2の「建築主事の特例」に似ています。
最初に簡単にまとめると
特別区にも建築主事が置けること、そして、建築主事を置いたとき、建築基準法の中で建築主事が行うことになっている事務のうち特別区に置いた建築主事が行う事務が規定されています
今回は、1・2項の建築主事に関する内容について解説したいと思います。
3・4項については、別途解説します。(1項により特別区に建築主事を置いたときの、特定行政庁の事務について規定されています。)
最初に1・2項を簡単にまとめると
特別区にも建築主事が置けること、そして、建築主事を置いたとき、建築基準法の中で建築主事が行うことになっている事務のうち特別区に置いた建築主事が行う事務が規定されています。
さっそく、第1項を見てみると
特別区においては、第四条第二項の規定によるほか、特別区の長の指揮監督の下に、この法律中建築主事の権限に属するものとされている事務で政令で定めるものをつかさどらせるために、建築主事を置くことができる。この場合においては、この法律中建築主事に関する規定は、特別区が置く建築主事に適用があるものとする。
と規定されていて、法97条の2に似ていますが、出だしに「法4条2項の規定によるほか」とあります。ここの部分は、「特別区にも法4条2項によって建築主事を置くことができる。」という規定ですが、東京23区のすべての特別区は現在この法97条の3に基づき建築主事を置いています。
また、特別区に置いた建築主事が行う事務については令149条で具体的に規定されています。
令149条1項をみると
と規定されていて、特別区に置いた建築主事が行う事務は、
一~三号(次の①~④)に該当する建築物・工作物・建築設備以外の建築物・工作物・建築設備に関する事務
と規定されています。(本文が否定形で規定されているので注意が必要です。)
逆から読むと一~三号に該当する建築物・工作物・建築設備に関する建築主事が行うこととされている事務は都に置く建築主事が行うこと読めます。
具体的に①~④を見ていくと、
①延べ面積が10,000㎡超の建築物
②新築・改築・増築・移転・築造・用途変更で、法51条の卸売市場などの都市計画決定が必要な建築物・工作物(法87条2・3項、法88条2項の法51条の準用規定含む)
や
建築基準法以外の法令で都知事の許可が必要な建築物・工作物
③令138条1項の準用工作物(建築基準法が準用される工作物)で①・②の建築物に附置する工作物
④エレベーター・エスカレーターで①・②の建築物に設置するもの
に該当するもの以外の建築物・工作物・建築設備の事務を行う。
法97条の2第1項・令148条1項で規定されている市町村の建築主事等の特例と似た規定ですが、規模などが異なっています。特別区に置く建築主事の方が対象とする規模など範囲が広範囲に渡っています。
最後に、法97条の3に戻ると
第2項では、
1項の規定は1項に基づき建築主事をおいた特別区内の令149条1項各号以外の事務を行う建築主事を都に置くことを妨げるものではない。
と規定されています。
以上、今回は特別区の特例のなかでも建築主事に係る部分(法97条の2第1・2項)に関する解説でした。
冒頭でも書きましたが、3・4項については、別途解説させていただきます。
構造耐力 (法20条)
構造耐力(構造規定)でまず押さえておかなければならないことは、建築物の規模・構造種別などによって適用される基準が異なるということです。
その出発点が法20条です。
(出発点と書いたのはこれからさらに令36条・令81条など多岐にわたるからです。)
また、構造規定は法20条がすべてと言われます。これは適用される基準の出発点であると同時に、構造規定の概念が書かれているからです。
法20条1項の本文には、
建築物は、自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造なものとして、次の各号に掲げる建築物の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める基準に適合するものでなければならない。
と書かれています。
簡単に書くと
建築物は
①自重や外力に対して、安全なものとしてください。
②建築物の区分(規模・構造など)によってその基準が異なるので、規模・構造などにあわせた基準に適合するものとしてください。
ということになります。
よって、法20条1項各号はそれぞれ建築物の区分と定める基準という構成で規定されています。この構成で規定されていると認識しておくことがとても大切です。
そして、定める基準は技術的基準(一般的に仕様規定言われています)と構造計算基準に分けられます。建築物に必要な構造の基準が仕様規定と構造計算基準で構成されているということを認識しておくこともとても大切です。
この構成を意識すると法文が読みやすくなると思います。
(建築物の区分⇒仕様規定+構造計算基準)
第一号
高さが六十メートルを超える建築物 当該建築物の安全上必要な構造方法に関して政令で定める技術的基準に適合するものであること。この場合において、その構造方法は、荷重及び外力によつて建築物の各部分に連続的に生ずる力及び変形を把握することその他の政令で定める基準に従つた構造計算によつて安全性が確かめられたものとして国土交通大臣の認定を受けたものであること。
波線部が建築物の区分です。そのあと、空白があり下線部が定める基準です。そして、定める基準の前段が技術的基準(仕様規定)への適合、後段が基準に従った構造計算をしなさいと規定されていることがわかります。
ここでちょっと深煎りします。
どの号に該当するかは、建築物の区分(規模・構造種別など)によってのみ振り分けられます。定める基準(設計方法)で分かれるものではありません。
(また仕様規定・構造計算基準については詳しく説明したいと思いますが…)
例えば、
高さ50mのRC造建築物で、法20条1項一号で定める基準(時刻歴応答解析)によって構造計算をしたからこの建築物は法20条1項一号に該当する。
これは間違いっています。
高さ50mの時点で、一号には該当しません。
一号の区分はあくまでも高さが60mを超える建築物です。
あくまで二号の区分に該当し、二号の「ロ」を“選択”して法20条1項の定める基準に基づいて時刻歴応答解析をしているだけということです。
あまり意味がなく、法律的な読み方の問題でもあり最初は理解しずらいかと思いますが、構造計算基準を理解するうえでとても重要だと思います。
とりあえず今回は構造規定で大切な法20条がどのように構成されているかを説明しました。これ以上書くととめどなく長くなってしまうので今回はここまでにしておきます。
仕様規定と構造計算基準についてはまた説明したいと思います。
はじめに
文章力を身に付けたい。そんな軽い気持ちからこのHPを立ち上げました。
そして、せっかくブログを書くなら私がこれまで関わったことのある建築基準法を題材にして書きたい。また、これまでインターネットに対して持っている苦手意識を少しでも克服したいとも考えています。
誰にでもわかるようなわかりやすい言葉で建築基準法を解説していきたいという思いから、主に、
①建築士の資格取得を目指している方
②経験の浅い建築実務者の方
③経験豊富な建築実務者だが法律的な話になるとちょっとという方
④建築に関して素人だが興味がある方
に伝わるような内容にしてきたいと思っています。
また、たまには実際の社会で起きていることを題材にしつつ「深入り」していきたいと思います。
文章力を身に着けたいという目的のため、文章がおかしい、法律的におかしい、わかりにくいなど気軽にコメントいただけると幸いです。
建築基準法の目的 (法第1条)
まずは建築基準法の1条について、
法第1条には建築基準法の目的が書かれています。
(目的)法第1条
この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もつて公共の福祉の増進に資することを目的とする。
当たり前のことが書いてあるだけで通常あまり意識することはありませんが、とても大切です。
深煎りポイント①
1条の文中の最低限の基準これがとても大切。
巷では2通りの解釈がされているように思われます。
①最低限の基準だから法律さえ守れば法律に書かれていないことは建築主の好きなようにしていいんだよね。
②最低限の基準しか書いていないんだから安心・安全な建築物ために法律以上に厳しい基準で設計するのが当たり前だよね。
両極端な解釈です。
一概には言えませんが、どちらかと言うと①は設計する側の立場で、②特定行政庁・建築主事(建築物を審査する側)の立場の考え方のような気がします。現実、建築紛争では①と②の立場で建築基準法の解釈が異なり紛争に発展するケースが多いのではないかと思います。
また、建築基準法を所管する国土交通省(法律をつくる側)・建築主・指定確認検査機関(建築物を審査する民間の機関)はどちらの立場なのでしょうか。
ひょっとしたら、①と②をTPOにあわせて使い分けいる場合も多いのかもしれません。
深煎りポイント②
法治国家である日本で建築基準法をはじめとする法律は、日本国憲法の範囲内で作られます。
その日本国憲法には様々な自由権が規定されています。建築基準法も自由権を侵すものであってはなりません。そういった意味では最低のルールさえ守れていればいいというのが、法律上の最終的な判断になるのではないでしょうか。実際に、過去の裁判事例についてもこのような立場で判決が出されています。
以上、今回は、建築基準法第1条について解説をさせていただきました。